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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)2210号 判決

栃木県芳賀郡茂木町大字茂木一六四三番地

控訴人

株式会社 西川

右代表者代表清算人

西川芳次郎

右訴訟代理人弁護士

芳井俊輔

栃木県真岡市荒町一、一五四番地

被控訴人

真岡税務署長

猪越祐司

右指定代理人

堀内恒雄

小林忠之

小林末男

大島良平

高畑正男

右当事者間の法人税更正決定等取消請求控訴事件について次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人真岡税務署長が控訴会社の昭和二八年四月一日より同年九月三〇日までの事業年度分の法人所得金額を金六万五、八〇〇円、昭和二八年一〇月一日より昭和二九年三月三一日までの事業年度分の法人所得額を金二九万七、〇〇〇円とした昭和三〇年三月三一日の更正決定はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、本件法人税更正決定の金額中六万五、〇〇〇円とあるを六万五、八〇〇円と訂正した外、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所の審判の対象となつたものは、控訴人の本訴の適否に関する中間の争だけであつて、すなわち、被控訴人真岡税務署長が控訴会社の法人所得金額の確定申告に対し昭和三〇年三月三一日なした法人税額更正決定につき、控訴人が法人税法第三四条第三五条に定める再調査の請求または審査の請求をしないで、直ちに右更正決定の取消を求める本訴を提起(右事実は当事者間に争のないところである。)したのは適法であるかどうかの点だけである。

おもうに、所轄税務署長から法人所得金額更正決定の通知を受けた法人が、その通知を受けた法人税額に対し異議があるときは、法人税法第三四条または第三五条の規定に基いて、再調査または審査の請求をなすべく、右再調査または審査の請求に対する決定を経なければ、右更正決定の取消または変更を求める訴を提起することができないものであり、ただ一定の期間が経過してなす再調査の決定の通知がないとき、審査の請求があつた日から三箇月を経過したとき、または再調査の決定若しくは審査の決定を経ることにより著しい損害を生ずる虞のあるときその他正当な事由があるときは、再調査の決定または審査の決定を経ないで、訴を提起することができるに過ぎないことは法人税法第三七条によつて明らかである。控訴人は、右再調査または審査の請求手続を経ないで本訴を提起したのは、次の如き正当の事由があるからである。すなわち、(一)被控訴人が本件法人税更正決定をなすにあたり、所得金実額調査のため控訴会社の本店に来た真岡税務署係官高畑正男は、会計技術についての基礎知識なく、会社経営の真相を把握する能力がないのみならず、調査に際し帳簿不備の責任を追及し、また控訴会社代表者西川芳次郎の妻及び雇女を呼出して給料支払に対する誘導質問をなし、その答弁に対しこれを詭弁として難詰して恐怖の念を抱かしめる等その調査方法も妥当を欠くものであり、そのような係官を以て仕事を担当させている被控訴人に対し、再調査の請求をしても目的を達し得ないことは明らかであり、審査の請求も出先現場係官が同一状態であるから同断である。(二)控訴会社は、昭和三〇年三月一四日解散し清算中であるが、控訴会社が再調査の決定または審査の決定を経た上で本訴を提起するとすれば、被控訴人のなした本件更正決定により控訴会社に課せられる国税県税市税の総額は三五万円を超え旁々その後の昭和二九年四月一日以降昭和三〇年三月一四日(控訴会社解散の日)までの事業年度分の所得額申告と清算結了に重大な結果を招来する。従つて控訴人が再調査等の手続を経ないで本訴を提起したのは、適法であると主張する。しかし、右(一)のような事実があつたとしても、これを以て再調査の決定または審査の決定を経ないで訴を提出しうる正当の事由があるものとは解し難いし、右手続を経ることにより控訴会社の清算結了が多少遅れることは考えられるが、これがため、法人税法第三七条第一項但書にいわゆる著しい損害を生ずる虞ある場合に該当するものとは認めることができない。

しからば、再調査の請求または審査の請求手続を経ないで直ちに提起された本訴は不適法であつて却下を免れない。これと同趣旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから、行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 角村克己 判事 菊地庚子三 判事 吉田豊)

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